2011年度第18回インターカレッジ民法討論会

【開催日時・場所】

 2011年12月4日(日)

 龍谷大学深草学舎 3号館301教室

【本年度の問題】

 自動車が趣味のXは、中古自動車販売会社Yから、中古の自動車甲を気に入って180万円で購入して使用していたが、Xには過失のない事故に巻き込まれて甲が大破し、甲を廃車せざるをえなかった。この事故の調査の過程で、次の事実が判明した。

   (1) 甲をYに売った元所有者A(現在行方不明)が甲の走行距離メーターに細工して甲の走行距離を短く偽装したこと

   (2) 甲の走行距離が上記メーターの数値どおりであれば甲の市場価格はおおむね180万円前後であったこと

   (3) 実際の走行距離を基準にすれば甲の市場価格は約60万円程度に過ぎなかったこと

   (4) XもYもこの偽装の事実を知らなかったこと

   (5) 走行メーターの偽装は非常に巧みに行われていて専門業者でもこうした事故調査の機会でもないと見抜くのが困難であったこと

  (6) XYの売買契約書では、甲のメーカー名、型式、色、事故歴(なし)、走行距離、傷(なし)など、中古車売買で通常記載される事項が記載されている。

 この事例について、次の3点を論じなさい。

   (a) 民法上、XはYに対して売買代金の返還を請求することができるか。

   (b) 消費者契約法による場合はどうか。

   (c) 仮に無効・取消し・解除のいずれかの理由でXが契約の効力を否定することができたとした場合、甲の売買契約の清算はどのように行われるべきか。


(出題:京都大学 松岡 久和)

【参加ゼミ】

  関西大学      寺川永ゼミ
  九州大学      七戸克彦ゼミ
  京都産業大学   吉永一行ゼミ
  慶応義塾大学   鹿野菜穂子ゼミ(研究会)
  慶応義塾大学   金山直樹ゼミ(研究会)
  早稲田大学     金山直樹ゼミ
  桃山学院大学   佐藤啓子ゼミ
  龍谷大学      若林三奈ゼミ
 

         (以上の8ゼミ。大学/担当教員名の50音順)

【準備段階におけるルール】


【立論・質疑応答】


【投票】


【立論に対する投票】

 採点基準

  ◆得点の算出方法◆

 →学生票の得点・教授票の得点の合計点数をそれぞれ有効投票数で割って平均し、その学生票の平均点と教授票の平均点を合計したものが、獲得点数とする。

  ※ 自ゼミへの投票は合計連から10点を減点とする。

  ※ 投票の結果、同点のゼミが出た場合、教員票の平均点数の高いゼミを高順位とする。 

【優秀質問者投票】


【結果発表】

  優勝         慶應義塾大学金山研究会

   準優勝          早稲田大学金山ゼミ

   第3位              九州大学七戸ゼミ

   次点              慶應義塾大学鹿野研究会

得点の内訳

 参加ゼミ名 学生+一般見学者票得点  教員票得点  合計得点  順  位 
慶應金山研究会 7.77 8.4 16.17
早稲田金山ゼミ 7.23 7.9 15.13
七戸ゼミ 5.61 7.3 12.91
鹿野研究会 5.29 7.2 12.49 次 点 


   奨励賞             龍谷大学若林ゼミ

   フィーバー賞          京都産業大学吉永ゼミ
                      賞品は七戸教授提供の謎の和製ブブセラのような竹筒の笛2本


   優秀質問者賞

       藤原 傑 君(慶応義塾大学金山研究会)
       藤本将人君(早稲田大学金山ゼミ)
       

【出題趣旨と総評】

 まだ書きかけです。

【個別のゼミへのコメント】(報告順)

1 関西大学・寺川ゼミ
 主要な論点をバランスよく論じていた。最初の立論として見本になるが、Aの行方不明への対処法など論じなくてもよいと思われる点に時間を割いたのは疑問。また情報量から仕方がない面があるが、レジュメが詰まりすぎて読みやすいとはいえず、少し早口すぎて聞き取るのも辛いなど、プレゼンテーションにはもう一工夫が必要と思われる。内容的には、不実表示について調査しても認識できない事実は客観的事実とは言えないと主張した点は、事実と評価の区別を誤っているように思われるし、帰責性必要説を採ることとあわせて、消費者保護を目的としている制度の方が錯誤や瑕疵担保より保護が狭いなど均衡を欠く。質疑応答は、おおむね良好だったが、清算につき現存利益が定められていないという記述を突っ込まれて詰まったのはまずかった。私の評点は7点。

2 龍谷大学若林ゼミ
 最初に特定物売買であることやXYの善意無過失を確認してスタートしたのはよかった。また、各種の論点をバランスよく取り上げて論じており、不当利得返還債権同士の相殺と同時履行の関係にも言及していてよかった。ただ、錯誤無効と認めつつ瑕疵担保では目的不達成とは言えないとして解除できないとしており、両者の関係がどうなるのかがわからない。また、現存利益への縮減を認めないため704条を根拠条文とするのは無理があったし、575条の類推適用も本件のように対価的な不均衡がある場合には必ずしも妥当ではなく、これらの点を質疑で突っ込まれた。対価的均衡がとれていない売買契約でも575条が適用されるという強弁の応答は、頑張ったなと評価できるが少し苦しかった。私の採点は8点で3位と高く評価した。

3 九州大学七戸ゼミ(岩橋愛佳さん)
 単独の立論であることを割り引けば、報告は論旨が明瞭で聞き取りやすく、質問にも堂々と答えていたのが素晴らしい。もっとも、単独立論である弱点もよく見え、質疑の最後の方は質問の趣旨に十分答えられなかった。また、一般論と当てはめを分けた叙述は、わかりやすい面もあると同時に、同じことが少し離れたところでもう一度出てくるため、重複があるのと聴衆に素早い頭の切替を要求するストレスが大きい。さらに、よく勉強していることがわかるが、説の対立に関するやや図式的な立場決定から当然に結論を導くような姿勢が垣間見えて(とりわけ判例にはよらない認識可能性説や契約責任説の採用)、裁判になればどうなるのかと不安になる。判例で想定される結論を示してからそれを具体的に批判するという方が説得力がある。評点は7点で4位。

4 慶應義塾大学鹿野研究会
 まず、レジュメがやや細かく(高齢者には見にくい(^_^;))、報告が早口すぎて、どの部分を語っているのか追いかけるのが苦しい。この報告も瑕疵担保では目的達成ができるため損害賠償のみとしたため、錯誤との関係が単純に自由選択で不均衡とならないのか気になった。また不実表示取消しと錯誤無効の関係にも一言欲しい。さらに、質問への答えで修理しつつ使うから修理分は60万円の価格査定に含まれると言いながら損害賠償で修理費も取れるかのような回答は前後矛盾していた。このように注文はあるが、検討の密度が濃く、錯誤と瑕疵担保の違いや取消し規範目的考慮の有無についてもそれなりの答えを用意するなど、充実していて優勝チームと遜色がなかった。唯一残念だったのは、やはり大幅な時間超過で、これはシミュレーション不足。錯誤無効と不実表示取消しの効果は、繰り返すことなく同じ扱いになると短くまとめることができたはずである。評点は8点-1点で7点。

5 京都産業大学吉永ゼミ
 初出場で先輩からの経験の伝承もないハンディがあったが、堂々とした報告で多くの論点にバランスよく触れることができていた。もっとも、故意・過失がないことが明らかな本件で詐欺取消や債務不履行解除に言及するのは不要で、その分、論じるべき点(たとえば不実表示の要件の丁寧な検討)に時間を割り振るべきだと思う。瑕疵担保解除を認める根拠として目的達成につきかなり考えてきたのは評価できる。ただ、「特定物は1つしかなく直そうとしても直せない」という論理では、わずかの瑕疵でも修補できなければ解除ができることになっておかしい。また危険負担の類推の説明は誤解があり厳しい指摘を受けた。全体にやや検討が浅いところにとどまった印象が否定できないが、他チームと十分わたりあえる実力があり、今後が楽しみである。評点6点は少し厳しすぎたかも。

6 桃山学院大学佐藤ゼミ
 まず、試験答案でも問題を繰り返すものがあるが、論じるべきことが多くスペースが足りないことを心配するべき場合に、問題を再録するのはよくない。また、全体として、「事実の検討より」として結論を導いているが、具体的な事実の指摘やその評価が明示されていないことが多く、何をどう検討したのかがわからないのは問題である。さらに、契約責任説を採った場合、代金減額に加えて甲の60万円の価額も損害賠償として取れるというのは、質問でも突っ込まれていたが、瑕疵と大破に因果関係がないため、無理である。このように論旨の基本的な点で改善を要するところが少なくなかった。他方、共通錯誤を指摘して動機錯誤の主張を基礎づけた点、不実表示の要件充足の丁寧な検討などは、とても優れて光っていた。質疑についても、たんに自分たちのグループの検討概要を繰り返して突っぱねるだけでは議論にならないので、新たな観点を示すとか切り返すなどの応答にこころがけて欲しい。評点は6点。

7 慶応義塾大学金山研究会
 全体に論じるべき点をバランスよく配置し、丁寧で説得力のある論旨の展開ができていた。質問に対しても、即答するレスポンスの良さと応答内容の充実が、事前の周到な準備を思わせ、力量の大きさを感じさせた。内容的には、瑕疵担保における「瑕疵」について「通有すべき性質を欠く」とする裁判例を援用しつつ、主観的瑕疵だとすることに説明がなく違和感を覚えた。惜しかったのは、「噛みすぎ」で「失礼しました」と断って言い直しをした回数が非常に多く、20秒の超過はそのためと思われる。おそらく最後まで原稿に手を入れていたため、読み上げ練習の時間が足りなかったものと思われる。もっとも、相対評価を加味した評点では、私は最優秀と評価して1位・10点を付けた。

8 早稲田大学金山ゼミ
 報告のプレゼンテーション能力は最高。結論を先に明示し、ポイントを絞ってわかりやすく聞き取りやすい報告となっていた。ただ、瑕疵担保において契約目的の達成の有無を検討せず、質疑でその点を突っ込まれると瑕疵の要件の中で検討していると答えた点は、NG。それでは別に要件が設けられている意味がなくなる(不実表示の勧誘要件についても同様の応対が見られた)。また、不当利得の効果につき536条類推適用説は(やや古いが)よいとして、現在の類型論で189条の広範な(類推)適用を認めるものはなく、質疑への応答と相まって、実は衡平説的不当利得観にとどまっているように感じられた。実務はそれで動いているので悪くはないが、類型論のいいとこ取りをしているような安易さ(理解不足)の疑いが拭えなかった。さらに、質疑応答で、強気で突っぱねるのも時には許されるが、そのような対応が多すぎた。それでは議論が成立しないので困る。いろいろ難点を指摘したが、全体としては慶應・金山ゼミに次ぐ総合力を感じさせたため、評点は9で第2位とした。

優秀質問者賞候補(発言順)

 自分(もしくは自分の所属するゼミ)の見解とは異なる説に立ってどうかと迫るのでは、よほど周到な質問にしないと答えとすれ違いに終わる。報告者の論理に従えば違う結論になるはず、とか、具体的にこういう場合に応用すると問題が出てくるのではないか、というような質問を期待したいが、これは学者にも難しい。


陳裕真(慶應・金山)君    現存利益返還が定められていないというが703条とはどういう関係になるのかを問うて論者を詰まらせた。 
高山夕弥香(寺川)さん    清算関係の場面で704条を適用しているが、Yは悪意ではないのではないかと、704条を根拠とする立論の問題点を突いた。 
田口明日香(七戸)さん    575条「準用」による清算は、対価的な不均衡がある本件では適用するべきでないと指摘した。「類推適用」と表現すべきです。 
笹川大智(慶應・金山)君     本件は価額返還で明確に返還債務の不均衡があるのにそれを認めてよいのか、と田口質問にうまくかぶせて追及した。私はこのタイムリーで厳しい質問に1票。 
刀祢諒輔(鹿野)君    60万円の債務があるのであれば、元々の債務は履行不能になっていないのか。それなら危険負担の問題ではない、と論理的に鋭く追及した。 
石川知弘(慶應・金山)君    取消原因を考慮する基本姿勢には賛成であるが、消費者契約法4条による取消しの場合も、無効との場合と同じでよいのか。取消原因がどう考慮されるのか、と立論者の論理をふまえて追及したのは、上記のとおり、望ましい質問の1つの例。 
藤原傑(慶應・金山)君    危険負担規定を類推しているが、目的物は解除前に滅失しており、債務成立後の不能とは異なって、類推の基礎すらないのではないか、と論理鋭く追及。これも望ましい質問の1つの例で、これを優秀質問者賞に選んだ参加者の目は高い! 
堀優夏(七戸)さん    危険負担の類推自体は良いとして、債権者主義によると、結論が逆になるのではないか、と説明の問題点を厳しく指摘(正しい指摘です)。 
神村泰輝(鹿野)君    不実表示について因果関係がないとされるが、瑕疵担保解除において契約目的を達成できないとすることと矛盾すると厳しい指摘。 
岩橋愛佳(七戸)さん    契約責任説に立っても瑕疵ある物を渡したことと大破したことには因果関係がないのではないか、と立論の欠点を厳しく指摘。 
柏木元気(鹿野)君    陳君の質問に対して、不実表示の場合の勧誘要件は当然持たされているという趣旨の回答を受け、それでは契約締結の勧誘であり限定している意味がなくなると追及。これも関連質問としてタイムリーで議論を深める良いものでした。